館長からのごあいさつ

農学生命科学研究科は、平成26年に140周年を迎えました。

その歴史は、明治7年創立の農事修学場、その後の農学校にさかのぼります。農学校設置にあたり、海外から多数の専門書が輸入され、明治10年には、「書籍室規則」が制定されました。当時、書器掛という部署で、書籍や機器を帳簿に付けて管理する仕事が行われていたという記録があり、生徒向けの規則では、借りた書籍を紛失したときの弁償のことや失火に対する注意も書かれていました。教育・研究活動の基盤となる図書館(に類した機構)は、このように、農学校設立のころから存在していたと言えます。

その後、帝国大学に合併し、農学部が駒場に置かれていた時代には、学生に対する図書サービスを中心とした図書館が存在しました。『東京大學百年史:部局史2 農学部』 によれば、研究のための図書、雑誌は学科や講座に置かれていたが、その総合目録の維持と管理は図書館が行っており、学部内共通利用体制をとっていたそうです。

しかし、現在の弥生キャンパスに移転した後は、正式に開館されることがなく、空襲による図書の焼失などもあって、戦後も図書館が存在しない状態が続きました。

現在の農学生命科学図書館は、50年前の昭和40年5月28日、農学部図書館として開館しました。設立費用は、国の予算とロックフェラー財団の援助資金に加え、卒業生らの寄付によるもので、設立にあたっては、教授会、助手会、学生自治会、図書職員が検討準備委員会を立ち上げ、各層の利用者と図書職員が協力して、学部の教育・研究のための図書館の設立をめざしました。東京大学附属図書館改善計画の中で、米国の先進的な図書館の制度を取り入れ、現代的な図書館として生まれ変わりますが、とくに、農学部図書館では、全館開架式を採用し、学外者の利用も認めるなど、当時の国立大学では利用しやすい図書館として、全国的にも注目され、その方針は現在も引き継がれています。

農学部図書館は、平成13年に農学生命科学図書館に改称されますが、開館以来、蔵書数の増加に伴い、書庫の拡張、別館の増築を行い、平成21年には、耐震工事と合わせて、図書館の多目的利用をめざした改修を行いました。

昭和52年からは、外国雑誌センター館の農学系の拠点として、農学および生物学分野の外国雑誌を体系的に収集し、他の大学・研究機関からの利用に供する全国共同利用施設としてサービスを行っています。

現在、農学生命科学図書館は、通常期で8時30分から22時45分まで開館していますが、これは東京大学の部局図書館の中でも、開館時間が最も長いものとなっています。

また、図書館の利用目的に応じたガイド、検索結果からの配架場所の案内など、使いやすさを実現するための工夫を行うとともに、会議室、ゼミナール室、個室、ラウンジなど、ハード・ソフト両面から、多くの方に利用していただけるよう、サービスの充実につとめています。

農学生命科学図書館は、以前より、ICTを活用したサービスを実施しており、先日は、Twitterのフォロワーが1000人を超えました。

利用者にとって、機能的で使いやすい図書館として教育・研究に奉仕するという、設立以来の使命を、時代の要請に適応しながら、また、その形態を柔軟に変えながら、今後も引き続き果たしていきたいと思います。


平成27年5月28日

第24代 東京大学農学生命科学図書館長
清水謙多郎