図書館の思い出

私は平成11年から平成15年の間、農学部の図書館長を務めさせていただきました。この期間中特に記憶に残っていることを申し上げたいと思います。

先ず、農学部図書館の館名の変更についてです。当時大学においては、大学院重点化が進み農学部の大学院も東京大学大学院農学生命科学研究科となりました。これに伴い専攻名も大幅に変わりました。そこで、この様な大きな変更に農学部図書館はどの様に対応すべきか議論になりました。議論の結果、大学院重点化に対応して東京大学農学部図書館から東京大学農学生命科学図書館にしようということになりました。しかし伝統ある名前を変えるのであるから教授会に諮り議決しようということとなりました。館名を募集したところ東京大学農学生命科学図書館、東京大学農学部図書館、東京大学弥生図書館が候補となり、投票の結果現在の東京大学農学生命科学図書館となりました。

そして図書館入口の看板を書き換えるにあたり、私が指名されてしまいました。悪戦苦闘してようやく書き上げた記憶があります。今もその看板が掲げてあると聞いております。

もう一つ記憶に強く残っていることは、雑誌の電子ジャーナル化です。当時、世界中で学術誌の電子化が進んでいました。そこで、図書館でも冊子体か電子ジャーナルか熱心に議論が行われました。私は冊子体すなわち「本」はヒトが長い時間をかけて創り上げ、ヒトはまたその「本」によって進化させられてきたと考えていましたので、両者は不即不離の関係にあると思っていました。しかしながら進化させられたヒトが創り上げた「IT」も新しい文化を創るとも思いました。すなわち「本」と「IT」の両者の融合が必要と思いました。議論の結果、経済的に許されるならば、とりあえず、両者の共存の方法を考えるということになったと思います。それから十年以上たった現在は、電子ジャーナルの全盛期かと思いますが、では「冊子体」はどうなっていくのか非常に興味を持っております。

私は学生時代そして勤務中も図書館に大変お世話になりました。図書館の持つ学術情報は教育研究に欠くことの出来ないものです。その東京大学農学生命科学図書館が今後ますます発展し、教育研究を進めるうえで揺るぎない存在となってゆくことを心から期待、確信しております。


平成27年8月17日

第19代(平成11年4月~15年3月)東京大学農学生命科学図書館長
東京大学名誉教授
上野川 修一