東京大学農学部創立125周年記念農学部図書館展示企画
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小作慣行調査
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『小作慣行調査』大正11年
栃木県安蘇郡
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『小作慣行調査』大正11年
栃木県安蘇郡
 戦前期のわが国農村を特徴づけた小作制度について、農商務省(のちに農林省)は数度にわたってその慣行を調査している。このうち調査結果が公表されているのは、明治18年、大正元年、大正10年、昭和11年の4回分であるが、農学部には、このうち大正10年(『小作慣行調査』)と昭和11年(『小作事情調査』)の調査個票が所蔵されている。いずれも、農林省から農学部農業経済学教室に貸与され、その後農学部図書館で保管され現在に至っている資料である。

1.『大正十年小作慣行調査』
 『大正十年調査』は、全国の町村をもれなく対象とし、また小作慣行を細部にわたって調査した点で、最も充実した調査と評価されている。調査項目は以下の17項目からなる。すなわち、(1)小作契約の締結、(2)小作契約の期間、(3)小作料、(4)小作料の納入、(5)小作料の滞納、(6)耕地整理が小作慣行に及ぼす影響、(7)米穀検査と小作慣行との関係、(8)小作契約の登記および小作地に対する制限、(9)地主または小作の賠償、(10)小作地修繕改良およびその負担、(11)小作契約当事者の変更、(12)契約の解除および消滅、(13)土地管理人、支配人、世話人等、(14)その他小作に関する重要事項、(15)永小作、(16)刈分小作その他特殊の小作、(17)小作に関する慣行の改善を要する諸点、理由、その方策、である。また、これら項目はさらに小項目・細項目へと細分・具体化され、極めて詳細な調査項目へと組み立てられていた。
 現在農学部で保管している調査原票は、北海道・福島・神奈川・徳島・高知・沖縄の1道5県を除く地域の郡ならびに町村調査個票である。ただし、保存の程度は府県により差がある。調査原票が残されている町村数の、全国町村数に対する割合は52%にとどまっている(秋田・群馬・埼玉・千葉・新潟・山梨・静岡・愛知・滋賀・和歌山・鳥取・島根・愛媛・福岡の諸県は80%以上の高い残存率を示す)。2部作成された町村調査個票のうち1部が関東大震災で焼失してしまったことが、町村個票の残存率を低めたと考えられる。

2.『昭和十一年小作事情調査』
 『小作事情調査』も、『大正十年調査』とほぼ同様の調査項目をもっているが、全町村が対象にされたわけではない。各郡から農業条件の異なる町村をおおむね3町村選び出すという方法がとられている。稲作地方・畑作地方・山地地方という区分が、調査町村選択の基準として採用されている。農学部が保存する個票は、秋田・山形・栃木・群馬・東京・福井・高知・長崎・沖縄の1府8県を除く道府県の調査原表である。

 以上に紹介した『小作慣行調査』の町村個票は、県あるいは全国レベルの集計値の背後に隠された小作慣行の地域的多様性を生き生きと伝えている。また、外国法の強い影響のもとに形成された近代法制度と、農村部における「生ける法」として長期にわたってその規範性を保持した慣行との関連を具体的に探っていく上でも、貴重な手がかりを与えてくれる資料群である。
 なお、『大正十年小作慣行調査』については、近年、マイクロフィルム化され市販に供された。本資料に関する詳細については、同マイクロフィルム版に附された解説(岩本純明稿)をも参照されたい。

(農業・資源経済学専攻 岩本純明)

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